「第88回日本温泉気候物理医学会」と長湯温泉 Part1

5月13日と14日の2日間、大分県の別府温泉で「第88回温泉気候物理医学会」が開催されました。前回はオンライン参加もありましたが、今回は会場参加のみの開催となり、久しぶりに多くの参加者が集い、活気のある学会が戻っていました。本学会は10年前にも別府温泉で開催され、当治療室の開業前に参加したことを懐かしく思い出しました。

学会発表の中から、温泉に関して興味深かったものを以下Ⅰにご紹介します。

 

また鍼灸についての発表をいくつか抜粋してⅡにご紹介します。
尚、次の「眞癒だより」にて学会後に訪れた当治療室でも利用している高濃度炭酸泉を自然湧出する「長湯温泉」についてご紹介いたします。

Ⅰ. 温泉についての発表から
【1. 別府温泉について】
  年齢5万年の別府温泉の源泉数は全国の約10%を占め、地下の温泉の源となる温泉水は約50年で入れ替わる。地下の熱水が沸騰し、蒸気と地下水が混合し、各種岩石との化学反応により多種多様な泉質が生まれる。そのおかげで別府温泉では7種類の泉質が湧出している。

【2. 温泉の医学的効果の発表から】
  温熱・物理・薬理などの効果がある。
  温熱効果には疼痛緩和筋緊張低下血液循環改善効果、また含有成分により、二酸化炭素や硫化水素の血管拡張効果、酸性泉の感染症抑制効果などがある。pH1.2の秋田県玉川温泉では細菌増殖抑制やウイルス不活化効果がある。また草津温泉ではヨードとマンガンによる殺菌作用がありアトピー性皮膚炎に効果をもたらす
  飲泉効果にはアルカリ性泉では胃粘膜保護作用、二酸化炭素泉では消化管蠕動運動亢進により食欲増進作用などがある。
  1回の温泉入浴でも唾液腺クロモグラニンの測定値から、水道水よりもリラック効果があることが分かった。

【3. 放射線療後の皮膚炎と強酸性水の影響】
  乳がん術後放射線治療後に強酸性水、強酸性泉を使用し、放射線皮膚炎が再燃あるいは治癒遷延した。放射線照射量は標準線量で適切だったとのこと。
  強酸性水は微生物細胞内部へ透過し、酵素活性の失活、DNAの損傷、細胞のイオン透過性障害、さらに細胞内で活性酸素を発生させ損傷を与え、放射線障害が遷延する可能性が推測されるとのこと。がん患者が放射線療法を受けた場合、温泉利用について説明する必要があるとのこと。

Ⅱ. 鍼灸についての発表から
【1. 頭痛に対する鍼治療の効果と作用機序】
  鎮痛に対する鍼の生理学的機序については既に下記のような複数の生体経路を活性化することにより痛みを緩和すると推測されている。

下行性疼痛調節経路の賦活(神経線維が脊髄内を下行して痛みの伝達を調整する経路の賦活)
内因性オピオイド分泌の促進
またアデノシン、オレキシン、オキシトシンなどの鎮痛作用を示す生体内物質が分泌される

片頭痛患者へのMRIを使用して脳血流分布を測定し解析した。
緊張型頭痛は僧帽筋など頭頸部の緊張が高まり、三叉神経の感作が関与し、
また片頭痛は痛みの情動系に関わるセロトニンの関与もある
片頭痛患者への鍼治療し、抜鍼30分後、脳血流が低下していた部位があり、継続することで血流の不均衡が改善していた

【2. うつ病に対する鍼灸治療の効果とエビデンス】
  うつ病と双極性障害患者を対象にした標準治療と鍼治療の研究により、うつと不安症状が鍼治療開始2ヶ月後から有意に軽減し、その効果は2ヶ月間持続した。さらに身体症状(肩頸部痛や不眠、食欲不振など)の軽減や生活の質の向上が示された。
  うつ病患者への鍼治療により、うつ病の病態部位である左前頭葉や扁桃体の局所脳血流などの特異的な変化をもたらすことで、臨床症状の改善に寄与している可能性がある。

【3. 脳卒中の後遺症に対する鍼灸の効果と機序】
  診療ガイドライン2021年版においては、複合性局所疼痛症候群(肩手症候群)に対して、訓練と併用して鍼治療を勧める(推奨度A)とされている。
  頭部や末梢部への経穴への低周波鍼通電を行うことが多く、痛みを抑制するシステムの正常化を図る。また脳循環改善目的に顔面部や三叉神経領域への経穴刺激を、患側だけでなく健側への治療を行うことで高位中枢への反応がおこりやすい。また嚥下機能の向上や唾液分泌亢進も期待できる

 

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