「第89回 日本温泉気候物理医学会」と紀州の温泉 Part1

6/1~2に和歌山県南紀白浜温泉で「第89回 日本温泉気候物理医学会」が開催されました。

今回のテーマは 温泉医学の未来を創造する- 健康・癒し・文化 -

温泉医学とリハビリテーション医学や、健康長寿戦略、温泉のユネスコ文化遺産登録に向けてのディスカッション、「新・湯治」についてのセッションもあり、温泉に関しては幅広い発表が多かったです。

また全日本鍼灸学会との連携シンポジウムもあり、鍼治療の作用機序や冷え症に関してのシンポジウムもありました。

発表のうちいくつかをご紹介します。

  1. 温泉のユネスコ文化遺産登録に向けて

イギリスなど7ヵ国11温泉地が2021年世界文化遺産に、フィンランド式サウナが2020年ユネスコ無形文化遺産に登録された。日本でも日本文化の一つである温泉をユネスコ無形文化遺産に登録しようと機運が高まっている。2023年5月には専門家の意見を反映するために元文化庁長官らを中心に検討会を開催し提言している。温泉文化は「自然の恵みである温泉を通して、心と体を癒す、国民全体の幅広い生活文化」である。

2.「新・湯治」の取組状況について

持続可能な温泉地づくりが求められる昨今の状況から、環境省では温泉地活性化策として「新・湯治」の取組を推進している。従来の「湯治」のイメージである「主に温泉入浴を中心とした療養」を含みつつ、周辺の自然環境や歴史・文化・食等の地域資源を活用し、これに積極的に触れるようなプログラムを体験するなど、温泉地全体を楽しみながら心身ともにリフレッシュする、現代のライフスタイルに合った新しい温泉地の過ごし方である。

また「新・湯治」効果測定調査プロジェクトとして、6年間の調査の結果が発表された。

全国の温泉地に滞在した利用者が回答した結果の中には、温泉地でなんらかのアクティビティを実施した方が心身の主観的変化の改善の割合が有意に高く、温泉利用後の心身の変化として「より幸せを感じるようになった」は85.3%、「ストレスが少なくなった」は84.6%、「肌の調子が良くなった」80%という良好な変化が確認出来た。

  1. 鍼治療が皮膚循環や筋循環に及ぼす影響と作用機序について

鍼を筋肉の深さまで刺入すると血管拡張物質が放出され筋血管が拡張し、筋血流が促進され発痛物質や疲労物質が除去されるため、肩凝りや筋肉痛、筋肉疲労といった症状が緩和すると考えられる。近年では血管内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)の関与も示唆される。放出されたNOが血管平滑筋を弛緩させることが知られている。

鍼治療による筋血流の増加に筋交感神経活動の関与も示唆される。今後は血管拡張物質や血管平滑筋を支配する血管運動神経の関与についても詳細な研究が必要だと思われる。

  1. 冷え症における末梢循環障害の原因と鍼灸治療の応用

「冷え性」は冷えやすい体質を指す一般用語として広まった言葉であり、漢方医学では、冷えが苦痛な人やその症状を「冷え症」と捉え、湯液(漢方)では陰陽五行説を排した虚実と気血水理論に基づく治療、鍼灸では陰陽五行説による寒熱と臓腑の虚実判定に基づく治療が行われてきた。

日本最初の「冷え症外来」を開設した北里研究所の東洋医学総合研究所によると、人体の冷え方は一様ではない。脚など下半身が冷え、時に上半身が熱くなる「下半身型」、手足などの末梢から冷える「四肢末端型」、体表面は温かいが内臓など体の中が冷える「内臓型」、体の中も外も冷える「全身型」の基本4パターンに集約される。これらの特徴は自律神経バランスの差異より規定されている。さらに体の一部のみが冷える「局所型」、これらの型が混在する「混合型」を加え、冷えのパターンは全6種に分類される。

冷えは1. 熱産生 2. 熱移動 3. 熱放散の3つの出納が重要である。鍼灸治療、手技療法、入浴法などは、末梢循環障害が関与する熱の輸送障害や放熱過多を原因とする「下半身型」「四肢末端型」「内蔵型」の冷えを根本的に改善させることが出来る。

LINEで送る
Pocket

コメント

※コメントは承認制となっております。承認されるまで表示されませんのでご了承ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)